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筋膜

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筋膜

私も長らく(専門家を自称する割には)理解していたとは言えないものの一つに、この筋膜という組織があります。
と言うわけでいつも通り自分の勉強のために調べてみました。

筋膜の一般的な理解としては

・結合組織に分類される

体は大まかには4種類の組織で構成されています。

他の三つは

・神経組織
・上皮組織
・筋組織

で、この4種類から枝分かれした膨大な組織分類が教科書に所狭しと載っているわけです。

さてこの筋膜、情けないのですが私は「シート状の組織がちょっと複雑に絡み合っている」程度に認識していました。
しかし実際は勉強をすすめてゆくと、もっとというか複雑怪奇すぎて、イメージすることすら難しいコネクションを形成していることがわかってきました。

まず結合組織というものの理解からはじめることにします。
テキストを見直してみる限り、それらはありとあらゆる組織、細胞間に入り込み、隣接している部位への栄養供給を手伝ったり、立体構造を維持する、(場合によっては)メインフレームのような働きをしているように思えます。
いわば構造上の基礎とも言える組織であり、大小関わらず構造/機能的な連続性を生み出す要と言っても過言では無い位置づけになっています。

さてその化学組成ですが、大まかに言うとコラーゲンとエラスチンという構造タンパクが主役となっています。
コラーゲンは硬タンパクとも言われ、全身のタンパク質の30%を占める、最もよく見るタンパク質です。
比較的単純な構造が繰り返されて成立しており、その合成にはビタミンCが重要な役割を果たします。

エラスチンはコラーゲン間をつなげるように存在しているタンパク質で、硬めで弾力に乏しいコラーゲンシートに弾性を与えたり、保湿に必要な構造を維持しています。
もう少し詳しく書くと、硬くて弾力に乏しいコラーゲンシートは波打つように余裕を持たせ、その間を弾力のあるエラスチンが結んでいるイメージでしょうか。

これらの不溶性繊維質と親水性ポリマーからなる“体中に張り巡らされた網”は、ほぼすべての解剖学的な構造物にテンセグリティー(圧縮応力構造)効果を持って影響します。
厳密には細胞そのものもテンセグリティー構造を持つため、これらの内部つまり染色体を含む核にまで応力を到達させている可能性を意識する必要があると思われます。

また当然生体負荷に対する応答性、順応性を持ち合わせ、長期間にわたる機能/加重偏重には可能な限り効率を保ちつつ適応変化が観察されます。
特徴的なのはこれらは生化学的な恒常性を安定させるためにしばしば踏み台にされる点で、場合によっては一刻を争う血糖値やPH、炭酸ガス濃度などよりも、一段低いパラメータと見なされているように思えます。

しかし冷静に考えるなら、血管に適度な安定性を与えているのは紛れもなく筋膜層ですし、その他の重要臓器が激しい動きに対して損傷を免れているのも筋膜ネットワークが適正に働くからこそで、筋膜が好ましい状態にあることがポテンシャル評価を上げることは間違いありません。

口幅ったいようですが、筋膜の状態を適正に保つことの出来る徒手矯正は決して無駄ではないことを再認識しました。

話を戻します。

1.あらゆる組織(たとえば筋腹)を包みながら内部にも繊維を伸ばし、機能的/構造的連続性に関与し、圧縮応力効果によって応力の分散をも行う。
2.親水性である故に、生体分子の多くを間質液として(おそらく)濃度勾配による移送で適切に分配し、人体の化学的な安定に寄与している。
3.またある動きに対してガイド的に働き、かつ動き全体の整合性を機械的に補助する。

筋膜/結合組織というものはそのような存在であると言うことがわかってきました。
これからそれぞれを考察してみます。

1.圧縮応力構造

圧縮部材と張力とがバランスされている構造を指しますが、圧縮部材を骨、張力を筋肉としてよく説明されます。
間違いではもちろんありませんが、筋膜もこの連続的な応力分散構造に強く関わっています。
また骨や筋肉よりも可塑性(変形性)が高く、負荷に対する順応性故に伸びる、あるいは肥厚して全体の整合性に影響します。
上腕二頭筋を例に考えてみます。
肘が過伸展している(特に時間をかけて)場合、肘筋とともに筋肉そのものは筋紡錘の働きにより破断を防ぐべく反射的に収縮を起こします。
このとき、筋肉の内外にシート状の構造を作っている筋膜は、特にその浅い層において加えられた力の総量÷時間の値が大きいほど、損傷の危険性が高まります。
しかし分母である時間が十分大きいとき、可逆性のある変形によって対応しようとします。
また逆に肘を曲げる運動時、十分な負荷を繰り返しかけることで筋は肥大しますが、このとき筋膜も生物学的な必然によって厚く強くなって行きます。
これも変形の一種で、やはり可逆性があります。

このように緩い応力分散構造の中の剛性は、筋膜のよい意味でのいい加減さによって支えられている面があります。

2.化学的な安定性への寄与

体液が行き来するのは何も血管やリンパ管だけではありません。
むしろ体液から断絶された組織というものが私たちの体内にあるのか、と言う方が適切な疑問のように思われます。
筋膜/結合組織間においても同様で、性状が必ずしも均一ではない「間質液」と称する体液が常に存在しています。
これらに血液/リンパ液が混じることはまれですが、何らかの栄養を受けていることや、あるいは制御の一端に関与していると考えられます。

そしてそれらは筋膜をはじめとした結合組織のネットワーク及び支持性が無ければ存在できず、また同様に間質液無しでは結合組織は十分な代謝を行えないと予想されます。

3、体の動きを統合する

制御系のそれでは無しに、筋膜同志による連結/連動によるものです。
ある負荷や動きに対して協調的に働くことでよりダイナミックな統合性をもたらします。
同時にこのことが従来の「結合組織をメスで切り開きながら腑分けする」解剖学のもとに発達してきた医療においては十分に理解されず、その現実的なリレーションシップは”ないもの”とされてきました。
しかし手技療法に携わる人間がしばしば経験する「解剖学的にみれば不可解としか言いようのない制限の連なり」は、きっとその多くのケースにおいて筋膜/結合組織の未だ一般化されていない連携が関与している蓋然性は極めて高いと私はみています。

さてここで発生学的な考察をしてみます。

人間をはじめとする多くの脊椎動物の、その最もはじめの状態が受精卵です。
受精卵は分割を繰り返し、やがて子宮内に下降してきます。
このとき、お互いのコピーであった細胞群は、徐々に専門性を高めて行くことになります。
その手始めが「胚葉」の形成です。

外胚葉:神経系と皮膚(表皮)などを形成します。
中胚葉:本稿の主題である筋膜や骨、筋肉などを形成し、支持組織の元になります。
内胚葉:主に消化管などを作ります。

胚葉形成後、筋膜の元になる中胚葉は外/内胚葉に自身の組織を潜り込ませるように細胞群をばらまきます。
言葉で説明するのは難しいですが、真ん中にある中胚葉が、外/内胚葉を包み込むように成長してゆき、脊髄を含む神経系と、消化管メインの内臓系を保護する役目を果たします。
このとき、外胚葉の一部は外部に出て皮膚を形作ります。

勉強不足なのでこれ以上のことははっきりとはわかりませんが、中胚葉由来の筋膜があまねく、そして余すところなく自身を浸透させ、機械的生化学的に影響を与えうるというイメージは、私のような手技療法を行うものにとっては大変貴重なサジェスチョンとなります。
そしてそれは常に連動しながら機能しているという事実は、治良への確信をもたらしてくれるものでした。

さてでは次に筋膜をどのように扱うべきか。

1.直接的なリリース

私たち手技療法家が最も得意とするのは「可動制限を解除する=組織を緩める」です。
どのような原因であれ、固まっている部位を直接的に触り、もんだりたたいたりしてその部位の緊張を和らげる。
これが最も分かりやすく、(する側もされる側も)取っつきやすい方法であることは間違いありません。
私はすっかり出来なくなってしまいましたが(笑)、程度さえわきまえていればとてもよい方法だと今でも思っています。

筋膜に関して言うなら、完全に変性する前、つまり可塑性が残っている状態であれば、初期であれば直接法を、中程度で固着しているようであれば間接法を用いてアプローチするとよいかも知れません。
いずれにしても問題の上流を突き止め意識しながらリリースを試みる必要があり、漫然と押したりもんだりしていてもらちがあかないこともしばしばです。

2.温める

手技療法家のくせに何を言っておる!とおしかりを受けそうですが、論理的に考えるに多くのケースでよい結果を期待できます。
結合組織である筋膜はその内部に制限のある場合、その血管運動や間質液の移動も制限されることは明白です。
つまり「鬱滞」が生じるわけですが、この問題に対処する方法として「温める」コトはとても有効であると言えます。
ただし回復のきっかけになる売ることもあれば、一時しのぎにしかならないこともあるので、数回試してみて状態が繰り返すようなら見切るべきでしょう。

3.問題の上流を(何らかの方法で)解決

筋膜の連続性は、私たちの体にダイナミックな連動性をもたらしますが、その一方では症状(筋膜の制限が集約し血行阻害/亢進などが起きている)のある部位と、全体の整合性を保ちつつ状態を好転させうるポイントが、位置的にも従来の解剖学的にもかけ離れてしまう原因にもなります。
つまり「本当に手を入れなければならない部位がわかりづらくなる」という弊害もあるわけです。
これを解決する方法は現在数多く提示されていますが、筋膜リリースという方向から見た場合はどのようなものが考えられるのでしょうか。

とこれはまだこれから勉強してみます(笑)。

時々外傷、あるいは外傷に準ずる負荷により筋膜/結合組織が完全に切り裂かれ、表皮や血管/筋肉に比べておおざっぱにしか修復されず放置された結果、連動性が低下し循環効率などが不安定になるケースを見かけます。

もちろん内部では最低限あるいはそれ以上の自動修復が行われているのですが、どうしても体力が落ちているときなどは筋膜復元にさくエネルギーは後回しにされる傾向があるようです。

治良はもちろん切れ切れになったそれらをつなげることは出来ません。
しかし修復に必要なきっかけ、あるいは方向性を「後押し」することによって、少なくない症例において好ましい状況を作り出している実感が私にはあります。

炎症と呼べるようなものが必ずしも痛みの部位に存在するわけではない。
これは長い間に培った確信とも呼べる実感ですが、痛みの処理側つまり神経や神経核と呼ばれるパーツの問題であると考えてきました。
今もこの考えには大筋では変わりありませんが、神経内部にも支持構造としての結合組織は存在しています。
そしてそれらは事実上一連なりのネットワークを構築し、緩衝地帯こそあれ、力学的な作用から完全に切り離された部位を見つけ出すのはきわめて困難であることが予想されます。
この事実を踏まえて考えるに、そして手技療法の特質を併せみるとき、筋膜への理解はきわめて重要であると再認識します。

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