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異痛症

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異痛症

私たちの仕事で(当たり前ですが)もっとも何とかしてほしいと訴えられる感覚は「痛み」でしょう。

ただしこの痛みという感覚は、じつは様々な要素に左右されるものです。

痛みの経路をざっとみてゆきます。

求心性(中枢へ向かう感覚)の経路のうち、痛みを伝える神経は「Ⅲ」および「Ⅳ」という線維に分類されます。
ちなみにⅠ、Ⅱは筋肉や腱にあるセンサー専用で、体のデータを送信するために使われます。

まず感覚受容器。

これは皮膚などに分布するセンサーで、多様な種類があります。

このうち一定以上の刺激を電気信号に変換し、神経へ伝えるためのメカニズムを備えています。
組織が反応する強さを「閾値」といい、これが低ければ「敏感」となります。

痛みに関して言うと、組織に加わった刺激のうち、生体の機能を脅かすレベルのものが受容器を通して神経に伝えられます。

センサーの感度によって大まかには2種類に分けられます。

一つは高閾値受容器。
主にAδという比較的太めの神経線維につながり、機械的刺激にのみ反応するようになっています。
あとに紹介するC線維接続のセンサーよりも敏感で、神経線維内の伝導速度も速いのが特徴です。

もう一つはポリモーダル受容器。
前出の高閾値受容器よりも感度は鈍く、局在性がはっきりしない、うずくような痛みはこの受容器から伝えられた信号がほとんどです。
ポリ(たくさんの)モーダル(モード=様式)に反応し、C線維という、痛みを伝える中では細くて、神経を包む鞘(髄鞘)を持たないために伝導速度が遅い線維に接続しています。
このセンサーは様々な化学刺激に反応し、15度以下あるいは43度以上の冷温感覚も拾います。

これらは皮膚だけでは無く、骨格筋や内臓にも分布しており、当該組織のデータを伝えるようになっています。

ちなみに高閾値受容器があるなら低閾値受容器もあります。
これはより弱い刺激である触覚を伝えるもので、Aβ線維という、Aδ線維よりも太い線維に接続しています。

末端センサーでキャッチ/変換された刺激は背骨の中にある脊髄の後ろ側(後根)から脊髄に入ります。
ここでいったん線維を換えます(シナプスを換えると言います)。

このとき、痛み刺激や識別できない触覚刺激は脊髄内を横切り、反対側の脊髄視床路という部分を通り、間脳部視床に達します。
さらにここでもう一度シナプスを換えて大脳皮質体性感覚野に振り分けられます。

この場合、痛みを感じているのは視床であり、どの部分が痛んでいるのかを知らせるのは大脳皮質体性感覚野と言うことになります。

さて表題の異痛症ですが、これはじつは数多くの原因というか成因によって生じる、ある種の症候群と考えられています。

代表的なところでは線維筋痛症、中枢痛、関連痛などがあり、薬物代謝問題から生じる依存性の痛みなどもあります。

痛みを伝える経路に関してはそのすべてが判明しているわけでは無く、発生学的な関係を始め、複雑なネットワークを形成しており、まだ研究段階の問題が数多くあると言われています。

私たち手技療法家の仕事においてもかなりの頻度でこの問題と直面し、何となく落ち着くものから四苦八苦しながら対応しなければならないものまで、じつに千差万別と言える問題です。

その中の一つに「病理的ではないが変性をおこし、その結果きわめて微細な刺激も痛みとして処理してしまう問題」というものがあります。

痛み刺激はセンサーを経て神経線維を通り、脊髄内の細胞に到達します。
このとき脊髄後角においていくつかシナプスを乗り換えます。
痛みは強く鋭い(敏感な)痛みと、割とゆっくり伝わるはっきりしない痛みなどが入ってきます。
前者はA,後者はC線維を伝わり入ります。

C線維の場合、センサーは広く浅く刺激を拾い、厳密ではないにしろ弁別性もあります。
この性質が徒となって、センサー部を含めてCは状況によっては疲弊しやすいという性質もあります。

センサー/線維のどちらかが効率を低下させると、本来C線維が接続している脊髄内のシナプスに「命令送れ」という要求が発生します。

さてここで神経間隙の生理について。

シナプスというのは、軸索と軸索の間隙で起きる化学物質の受け渡しのことを言います。
運ばれてきた刺激信号が軸索末端に到達すると、その部分から伝達物質が放出されます。
グルタミン酸などが多いですが、C線維は様々な物質を放出して伝達を維持します。

このメカニズムに依存したシナプスは、刺激がある程度のレベルで送られてくることによって、その機能を維持しています。

話を戻すと、C線維からの入力が一定レベル以下に低下した脊髄内シナプスは、この問題を近くにいるAδ線維からの入力で乗り切ろうとします。
つまりCがつながっていた部分にAがつながるわけです。

Aδは高閾値(比較的鈍感)とはいえ、Cよりも敏感/高速で、Cの残った伝導性を遙かに上回る量とスピードの入力を行いがちです。

これにより今まで痛みとして処理しなかった刺激の種類と量が入力、処理されることになります。

またこの痛みによって交感神経節は常時興奮気味になり、血管の収縮を招く羽目となります。
これが神経周辺で起きると酸欠>交感神経興奮のループが形成され、場合によっては局所的な脱分極の促進(過敏性)がおきます。

このようにして痛みに対する良い意味での冗長性は低下し、余計な敏感さが形成され、処理しなければならない痛みはますます増えてゆきます。

もう一つのシナプスである視床部分でもこのような変性と思われる問題が生じることがあります。

上記のような状況下で絶え間ない刺激が送られてくると内部で何らかの変性、一説では細胞の増殖などが起き、これによって感受性や投射性が増し、痛みが増強されることがあります。
このときの痛みは前者よりもはるかに広範になり、一般に激痛となりやすく、場合によっては運動障害もセットになります。

もちろんこれらの説明は当該部に重篤な病変が無いことを前提にしているのはいうまでもありません。

また(私は滅多に遭遇しませんが)脊髄内の経路である脊髄視床路、つまり上記二つの経路間のどこかに問題が出ても痛みが出ます。

この場合は場所によりますが脊髄側核にある交感神経核とのシナプスがイレギュラーに増え、当該部位の自律神経反応が不安定になり、それがまた血管収縮>酸欠>痛み因子増強反応を起こします。

このように単一髄節あるいは横方向の制御システムのつながりだけでは説明のつかない状態があるとき、(狭くても良いので)とりあえず縦方向の問題を考えてみるのが有効であることもしばしばです。

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