Case-8
Case-8
制御系問題 めまいの一症例
なぜかわかりませんが、うちの治良室はめまいを訴えてくる人の割合がとても多いのです。
そして比較的反応する割合も高い症状であると感じています。
他の手技療法でもそういうものなのか、それともノンフォース系の治療を行うところに集まりやすいのかは不明ですが、ともかく診る機会が多いのは確かです。
そんな中で自律神経系がらみと思われる症例に関して考察してみたいと思います。
中年男性が「左に頚を向けるとふわつくようなめまいがする」と訴えて来院。
通常、中年から高齢者の上記のような訴えは非常に危険な状態を示唆していることが多く、きわめて慎重な対応が求められるケースとみるべきです。
また特定の頭部ポジションが誘発するめまいも危険で、どちらも多くは脳幹や小脳に梗塞、もしくは軽度の出血あるいは腫瘍を伴う問題で、医師にゆだねるべきことが珍しくありません。
このような訴えの場合、必ず専門医の診断後であることを確認する必要があります。
このケースでは頭部スキャンは実施済みで、過去に起きたと思われる小さな梗塞が一つあるだけで、とくに問題を生じている段階ではないと診断されていました(年齢的にもよくあるパターン)。
また耳鳴り、発作的周期的めまいはないため、メニエール(内耳リンパ水腫)の可能性は排除されています。
早速検査を実施。
まず左を向くと血圧の低下が左側に起きます。
それ以外では拡張期血圧が左で10程度高いようでした。
左軟口蓋カーテン症候陽性。
左軟口蓋に迷走神経由来の麻痺があることを伺わせます。
つぎ足歩行正常。
指鼻試験正常。
小脳の問題は検出されません。
閉眼時の体の方向きもないことから、末梢における問題の可能性も低いと判断しました。
おおざっぱに考えると
・クリティカルな問題の可能性は低い。
・総頸動脈と椎骨動脈の血流不全が左回旋時に起きていると推測される
となります。
座位にて頚部を軽く(しかし症状の出る程度に)回旋させてチェック。
自覚的には右悸肋部から内腹斜筋付近の緊張が強くなる。
他覚的所見としては右仙腸関節(可動性の減少)から大腿筋膜張筋に反応あり。
とくに吸気時、これらの問題が強く反応する。
右側より肋骨下端付近にコンタクト。
吸気時に感じる緊張を強調するように筋膜の動きを追う。
3回目に緊張が解けてくるのを感じ始め、6回目で完全に弛緩。
同じ体勢でチェックしてみると自覚症状、他覚所見ともに安定した状態に変化。
めまいもややあるが大幅に改善。
以後3回の治良で症状消失。
ただし血圧の左右差はまだあり、要観察を伝えて終了。
------考察ここから-------
数年前のケーススタディですが、改めてみてみると問題の肝が「交感神経系の問題」であることがわかります。
(とはいうものの、当時はそこまで考えていませんでした)
まず大動脈弓から分岐した総頸動脈は、左側において本来であれば血流が有利になるように配置されています。
ところが左回旋時に生じる「何か」によって、その流量を減じさせてしまうなにかがあるようです。
血管ないしは血管を包む筋膜、あるいは椎骨動脈を通す椎体の可動制限からくる問題も可能性としては考えられます。
左の血圧が下で10程度高いということは、静脈圧においてもやや左が高いことを示しています。
静脈圧そのものはほとんど検出できないくらいに低いですが、ここに差があると、検査結果に大きく差が出ます。
ポジションによって血流に差が生じ、通常では片方に血圧の高さが観察される。
そして緊急性の高い問題、たとえば血管内のプラークや腫瘍などはない。
そのほか内分泌系やカルシウム代謝問題、腎機能問題などが原因では無いとすると、これは交感神経系機能の左右差に他なりません。
血管も筋肉ですから、その収縮は交感神経の仕事になります。
場所を考えると左星状神経節から内頸動脈神経叢にいたるどこかに負荷がかかっていたはずです。
問題箇所はどこなのか。
まず回旋時の血管にかかる負荷ですが、その全長が足りずに引っ張られ、径が細くなり流量が落ちる、という説はとりあえず却下です。
あまりに説得力がありません。
何かの要因が左側の交感神経系を刺激し、それが血流に必要な動きを制限してため片側の流量が落ちてめまいにつながる、という仮説を立ててみます。
さてこの方は軟口蓋左に麻痺があるようですが、迷走神経と舌咽神経が関係しているはずです。
両者は
迷走神経>>これが疲弊すると必然的に交感神経系が亢進する。
舌咽神経>>頸動脈小体および頸動脈洞の血圧受容器に関連
しています。
とくに舌咽神経の機能低下は、頸動脈小体から延髄呼吸中枢にフィードバックされる情報をあやふやにします。
吸気時に起きる反応と併せて考えるとどうやらこのあたりが問題の中心部みたいです。
では左回旋時に生じるポテンシャル変動とはどんなものがあるのでしょうか。
ゆっくり左を向いてみるとわかるのですが、やや左顎のしまりが緩くなり、軟口蓋が持ち上がるような動きがあります。
詳しいメカニズムは不明ですが、左を向くたびに上記の脳神経を刺激していた可能性があります。
通常であれば問題ないようなアクションでも、ダメージがあるときには十分負荷になり得たのでしょう。
これが左側を向くたび迷走神経、舌咽神経を強制的に興奮させ、しかし十分に機能できずに反動で交感神経系を亢進させる結果となっていた。
そしてそれは血圧の変動を招くに十分な刺激となって総頸動脈を左側だけだけ収縮させた。
通常であればこれで血圧が上がるはずだが、血圧を感知するセンサーの問題と相まって、血圧降下>血流量の低下につなかった。
このケースはそのように考えられます。
------考察ここまで-------