葛根湯考
葛根湯考
5/14(木)
追記:本文で「東洋医学的には病気は 太陽→小陽→陽明→太陰→小陰→厥陰という順に進行(例外も多々あるようですが)するらしく」と書いてありますが、岩﨑鋼氏によれば「太陽、陽明、小陽、太陰、小陰、厥陰と並べるのが正しい」とのことです。高齢者のための漢方診療73ページ
私ではどちらが妥当なのか判断がつきませんが、小陽病期は陽明病期でやや消耗後に起こるらしく、私に対する説得力は岩﨑氏の方があります。
日本の風邪対処法としてはかなりポピュラーなイメージの葛根湯。
ドラッグストアに行くと結構な数、種類をみることが出来ます。
ただポピュラーすぎて何はともあれ葛根湯!という人もいるようです。
さらにはこれを日常的に常飲(!)し体調を崩したとおぼしきケースを私はいくつか経験しています。
その一つを以下に紹介します。
40代女性
風邪は葛根湯がこの方のポリシーみたいなものだったらしいのですが、それ以外でも1日一本程度はエナジードリンクがわりに飲んでいたとのこと(本人曰く"元気になる")。
しかしある時期から腰痛や肩こり、全身の倦怠感やらを感じることが多くなったきたと訴える。
聞けばだんだん風邪をひきやすくなってきてそれにつれて葛根湯の消費量も増えている。
食欲は落ち、眠りも浅くいつも疲れている感じ。
メディカルチェックでは特段問題を指摘されていないが年齢なりに血糖値に(正常範囲ではあるものの)変化が出始めている。
検査してみるとやたらと手が冷たい。
私も温かい方ではないですがとにかく冷たく弾力がない。
経験的にいうとこれは消耗状態であり、胃腸をはじめとした内臓全般がへばっていることが多いパターンです。
手元にある何冊かの漢方入門書などで調べてみると、葛根湯は発汗させ、解熱、鎮痛に効果があると書いています。
しかしよく読んでみるとこれらは体力のあるフェーズ、つまり風邪のひき始めに効くとあります。
東洋医学的には病気は 太陽→小陽→陽明→太陰→小陰→厥陰という順に進行(例外も多々あるようですが)するらしく、葛根湯は表面での戦いである「太陽病」期の特に寒気を感じるときに使うべき、らしいのです。
いくつか本を読んだりネットで調べたりしてわかったのは以下の通り(まちがっているかもしれません)
太陽:問題が極表面にあり体力十分な時期の小競り合い(寒気が始まり身体の節々が痛む)
小陽:膠着期で進行するのか復元するのかどっちつかず(熱が出たり下がったりを繰り返す時期 拗れはじめ)
陽明:かなり問題が進むも体力はあるので全力で攻防している状況(熱がこもり症状は強め)
太陰:エネルギーが切れてきて身体が冷えはじめる(熱を作るエネルギーが不足し特に消化管の吸収能力が低下)
小陰:基本的なシステムの消耗が始まる、戦場で言うと弾切れに近い(生命力が低下)
厥陰:エネルギー無しで免疫システムや制御系も崩壊もしくはその寸前(かなり重篤な状態)
葛根湯の成分である麻黄はエフェドリンを含み交感神経を刺激する効果があるとあります。
つまり体の奥深くに侵入しようとする外邪(東洋医学では外から侵入してきて秩序を乱す要因をそう呼ぶそうです)がまだ表面にいて体力も十分にあるとき、そして汗をかけずに放熱できない状況で身体に発破をかけて外邪を一気に追い出す。
そんな使い方を想定しているようです。
一方軽い寒気や汗をかいているなどでは使ってはいけないともありました。
外邪の侵食が弱いか闘病反応が弱いかのどちらかなので安易に刺激すべからず、らしいです。
こういったある種の刺激薬を病状が進行した状況で使う、上で言うなら太陽以降の小陽陽明特に太陰小陰厥陰期に使うのは消耗を促進し身体の冷えを加速させるとのこと。
40代女性は年齢に伴う衰えに加えて交感神経刺激物質を長年使って身体にむち打った結果、エネルギーを使い過ぎて「疲弊」してしまっていたわけです。
大好物の葛根湯は当面禁止、白湯に切り替えさせ食事も温かいものをゆっくり食べるよう指示。
長湯、深酒もやめさせ、これまた身体を冷やすこと請け合いの毎朝のスムージーも当面やめるよう助言。
もちろん本人は文句たらたらでしたが一週間だけやってみなさい、それでだめなら私の診立てがまちがっているので他でみてもらうように話しました。
結果は翌日から出始め、一週間後には訴えがほぼ消失。
葛根湯依存症もなくなり(笑)無事回復を果たしました。
標準医学も東洋医学も徒手矯正のカバーできない領域で恐ろしく効果を発揮する"飛び道具"をいくつも持っています。
しかしそれ故に正確な専門知識に基づく的確な判断が必須でもあります。
漢方は副作用がない(これは漢方の持つまちがったイメージが一人歩きした感じの都市伝説)なんて大嘘です。
効果があると言うことは今起きている好ましくない反応に介入して変化を起こさせるということで、それは生化学的な反応をブロックまたは賦活する機能があると言うことになります。
使い過ぎやまちがった使い方は当然何らかのダメージを生体に与えうるわけです。
副作用を持ち得ないものは効果もないと言い換えることも出来ます。
この点は標準医学で使う合成薬と同じです。
植物由来のものが多く何となく利き目が柔らかいイメージを私も持っていましたが、使うときは良く考えてからの方がいい(当たり前)。
この一件から改めてそう考えるようになりました。
皆様にはご理解の上正しくお使いいただきたく思っています。