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自律神経についての誤解

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自律神経についての誤解

自律神経。
この言葉についての誤解というのは、私が思っている以上に強くそして広い範囲に拡がっているなと最近改めて思うようになりました。

まず当院でこの言葉を使って説明を行う場合、それは心理的プレッシャーが起こす適応障害を指すものではありません。
また暗に「しっかりしなくてはいけませんよ」と注意喚起しているわけでもなく、単に「自律神経系というシステム」について説明しています。

今回も復習をかねて書いてみます。

発生学的には体性神経と相同で、外胚葉から発生します。
また感覚器や皮膚なども同じ外胚葉由来で、時として想像を超えて関連性が見いだされることがあります。

自律神経系は交感神経系 sympathetic division と、 副交感神経系 parasympathetic division に分かれます。
いくつかの例外を除き、基本的に組織臓器はこの2系統によって拮抗的な支配を受けます。

どちらも基本的には自律神経節 autonomic ganglionに接続し、その節後繊維が組織臓器に影響を及ぼします。

交感神経系

その細胞は胸腰髄側角のみに存在し、ここから発した交感神経繊維は脊柱脇を走行する交感神経幹に接続するまでを節前繊維と言います。
骨盤臓器(子宮、直腸など)や腹部内臓を支配する繊維は椎前神経節をへて当該臓器へと向かいます。
節前繊維が神経幹に入ると内部でシナプスが行われ、一部は中枢/交感神経系全体へのインパルスとして、また一部は血管発汗などの機能をコントロールする方向へ向かいます。
上頚交感神経節は唾液腺や涙腺などを支配する繊維を伸ばしています。

ちなみに伝達物質は基本的に節前繊維>アセチルコリン、節後繊維はノルアドレナリンで、汗腺を支配する節後ニューロンはアセチルコリン、副腎は唯一節前繊維支配でアセチルコリン作動性です。

その効果は一般的に興奮、闘争側に向くよう体を変動させます。

副交感神経系

その神経細胞は脳幹と脊髄(仙髄)に存在しています。
脳幹にある副交感神経繊維はいくつかの遠心性繊維とともに効果器に到達します。

動眼神経とともに出る繊維はエディンガー・ウェストファール核(以下EW)から発しています。
これは動眼神経核に隣接する中脳中心灰白質にあり、眼窩内で毛様体神経節に枝分かれします。
この節後繊維は瞳孔括約筋と毛様体筋を支配します。
前者は対光反射で縮瞳を、後者は水晶体の厚さを調節する役目を負います。

対光反射は同時に視神経にも影響を受けます。
EW核の場合、単核で両側を支配しているので、正常であれば片方をチェックしているときも両方が反応しますが、視神経から視覚野に問題が生じると片方だけ反応するので鑑別に役立ちます。

上唾液核と下唾液核はその神経細胞が橋に位置します。
上唾液核は顔面神経とともに走行します。
途中分岐して涙腺、鼻腔、口蓋粘膜腺をコントロールします。
下唾液核は下顎周辺の支配がメインで、顎下腺舌下腺に影響を及ぼします。

迷走神経は腹部内臓から上を交感神経とともに制御しています。
この中には感覚神経、運動神経、副交感神経節前繊維が含まれます。

三叉神経に終止する感覚神経は咽頭、喉頭、食道、鼓膜、外耳道、耳介の一部と関係しています。

迷走神経はその長い繊維で内臓全般を交感神経とともにコントロールしています。
一般的にですが、エネルギー吸収方向に対しては促進的に、エネルギーを消費する方向に対して抑制的に働きます。

また内臓の働きを制御する一環として、その内臓の一般的な感覚(主に平滑筋の伸張反射)も監視しています。

骨盤内臓器(子宮、膀胱、直腸など)は仙髄節2~4に存在する副交感性細胞が制御しています。

ちなみにこの仙骨神経叢は胸腰部交感神経細胞に抑制制御されることが多く、例外的には生殖行為における反応があります(確かそうだったような気がします)。

さてこの自律神経(系)、その最も大切な仕事はどんなことなのでしょうか。

私たちのように徒手矯正、あるいはパラメディカルに従事する人間がアプローチを行うとき、おそらくそのほとんどはこの自律神経系を介しての効果を期待しています。
もちろん機械的な反応を誘導することもできるでしょうが、たいていの場合それぞれの人体観、治療観を通して自律神経系に対して最も効果的と思われるアプローチを行うことになります。

正確にはどのような反応にも自律神経系の変動はついて回り、自律神経系の機能的変動は体を大きく変化させ得ます。
それ故に説明においてこの言葉をよく使うことになります。

統一した見解などはありませんのであくまで私の独断と言うことになりますが、それを説明するためのキーワードは「機能的最適化」でしょう。
その結果あれこれよくなる楽になる、ということが起こるのではないかと私は考えています。

上に書いたように自律神経は変動の主でもあり時として従にもなり得ます。
これを踏まえて最適化の意味を考えてみます。

私たちの調子を崩す現象の一つに「体というシステムの足並みがそろわない」というものがあります。

気温が下がってきているのに体表近くの血管に勢いよく血液が流れている。
暗くなってきているのに瞳孔が縮まったまま。
食べ物が入ってきたのに消化管の反応が鈍い。

ちょっと思いつくだけでもよくある不調の原因をいくつもあげることができますが、これらの困った反応に共通しているのは「(体内外の)環境変化に適切な追従を行えない」ということです。
それぞれ骨格筋や血管系などいくつかの系が協調して初めて「正しい」反応を起こすことが可能になりますが、この正しい反応が起きることを「最適化がなされている」と言います。

これをもう少し詳しくみてみます。

私たちの体はその内部環境がある一定の範囲内におさまるように常に調整されています。
血糖、血圧、体温、PH、呼吸量とガス交換率、拍動や拍出量など、一日でも、いやものによってはほんの数分で致命的なダメージを負うファクターもあります。
これらを常時監視し、必要であれば力尽くでも正常範囲に引き戻す。
このことを恒常性と言います。

恒常性維持機能を安定的に働かせるためには、それぞれの組織が最も好ましい状態で機能する必要があります。
そして好ましい状態を即時即応的に実現するためには、直接/間接的に関わっている組織やシステムをある範囲内で同調させる必要があります。
結果生じたより大きな働きの枠同士をもなめらかにすりあわせて初めて「最適な状態」が実現します。

通常離れた組織臓器システム同士は、内分泌系や免疫系などといった反応系の力も借りますが、縦横無尽に張り巡らされた神経系が最も素早く反応を起こします。
これが自律神経系の最も重要な働きではないかと私は考えます。
もちろん自律神経が直接起こすアクションというもの大変重要です。
ですがそれ以上に全身をタイムラグなしに反応させ、そしてそのシステム同士をやはり瞬時にすりあわせることは、自律神経系にしかできないことです。

これが適応性を失うとどうなるのか。

上に上げた例で考えてみると

・気温が下がり体温低下の危険性があるのに反応できずに血管を締め付けることができない
・取り入れるべき光の絶対量が確保できずに視覚が機能しない
・消化吸収が不十分で基礎代謝が維持できない

といったこと、つまり命の危険が簡単に訪れることになります。

そこまでシビアではなくとも、これらがほんの数テンポ遅れることがつづくと、それを補正するために一手間も二手間も多く仕事を強要され続けることになります。
一時ならともかく、いつもこれでは体がたまりません。

エネルギーそのものはあっても、それを適正に使えるように心身をなめらかに追従させるには最終的に中枢神経系が安定的に機能する必要があります。
そのきっかけ作りに大きな役目を負っているのはもちろん自律神経系で、特に交感神経>脳幹網様体は重要な働きをします。

これが適切なレベルかつ適宜興奮できないと実際の動きと脳の処理状況の間に乖離が発生します。
また脳の働きを促すシステムの機能低下は、末端の情報をまとめ上げ意志となし命令に変換する働きをスポイルします。

結果いつもからだがだるく、重く、活動しようとがんばってみても体がついてこない。
しかし病院で検査を受けてもはっきりとした原因が発見できないため、自分も周囲も問題として扱うべきかどうかすら迷ってしまう。

こういった訴えは意外と多く、不調や不調感の9割程度を占めるのではないかと個人的には考えます。

ただ、自律神経系視床下部や脳幹、交感神経幹や迷走神経など)そのものに問題が生じているのか、その影響下にある臓器や組織のフィードバックが適切でないために起きているのかはきちんと調べてみる必要が常にあります。
これらを体内外の変動に素直に柔らかく追従させる。
これを「(機能的)最適化」と言います。

方法論、アプローチそのものはセラピストの数だけあると言っても過言ではありませんが、その効果を公平に評価するために解析ポイントをつくるならば、それは自律神経の機能が最も適していることはおそらく間違いありません。

そんなわけで私が治良のあとに「自律神経系が・・」という言葉をつかったなら、それはあなたの体の最適化をした過程を説明しているとお考え下さい。

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