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依存症2

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依存症2

依存症2

依存症の稿では一般的に心配されやすい問題について書いてみました。
しかし当然ながらそれ以外にもたくさんの「依存を起こすモノやコト」はあります。

脳内麻薬という言葉が最近よく聞かれるようになりました。
ドーパミンなども中毒性という意味では“麻薬”といえないことも無いですが、ここでは一般にそれと扱われるオピオイド類について書いてみます。

「死にたくないから生きている」

このサイトで繰り返し書いてきた、私たちの“生きる動機”であり、本能の本質だと私が目している性向です。
その反射的な反応、行動は生涯衰えることは無くても、積極的な心理状態===生に飽くことなく思索行動し続ける心理===を維持し続けることは意外と困難であるとも書いてきました。
これはいわば「脳の代謝」をあるレベル以上で維持することと同義であり、思考や制御と言った複雑な反応を一手に担っているこの臓器を常時一定以上の稼働率で無理なく働かせておくことは、ほとんどの人間には事実上困難であると言っても過言では無いでしょう。

それでも死ぬまで生き続ける。
そしてできれば可能な限り死を後回しにしたい。

無茶というか悪あがきにも聞こえるこういった願望/本能は、ともすれば「どうして生存し続けたいのか」と言った疑問に押されがちになり、その思考の隘路に迷い込んだまま、気がつけば何もする気が起きなくなるなどと言うことも珍しくありません。
それは私たちが支配者である脳を肥大発達させてきたからであり、最大の武器であると同時に私たちを振り回すやっかいな方向へ行きがちな臓器だからです。
そんな脳の代謝を維持させてゆくためのえさというかご褒美をくれるのが報酬系であり、その興奮を最も効率よく引き出すのが「飲むうつ買う」と言った行為行動であることも繰り返し書いてきました。

実はもうひとつ強力な褒美というか、生きる気力を沸き立たせるツールとして脳は「痛みの緩和をしてくれるモノ」を備えています。
それらはオピオイドという、エンドルフィンを含む物質の総称によって成立すると考えられています。

オピオイドの「オピ」はアヘンを示す「オピウム」から来ており、脳内麻薬という名前にふさわしい物質といえるでしょう。
ちなみにアヘンは芥子の実から精製され、さらにアヘンを精製してゆくとモルヒネ、ヘロインと言った麻薬取締法に抵触する物質が作られます。
このうちモルヒネは医療用に使われることが多く、重要な鎮痛薬として専門医が扱います。

痛みというのは私が言うまでも無く、生物の生活の質に大きな、おそらくは最大の負荷となり得るモノでしょう。
これを取り除く、しかも永久に無くすることができるのであればそれに越したことはありませんが、未だ安全にそれを実現できたという話を聞いたことがありません。
痛みそのものは警戒信号として無くてはならないモノですが、問題はこれが持続するとたちまち私たちの心の中はそれを滅することで一杯になってしまうこことです。

ではどのように鎮痛作用を発揮するのでしょうか。

報酬系のところで側坐核という言葉が出てきました。
大脳基底核の一部として新線条体の間に挟まるように存在しています。
ここが報酬系回路の始まりである中脳腹側被蓋野(VTA)から信号を受け取り、快感達成感の主舞台となります。
同時にGABA(γアミノ酪酸)作動性神経によりドーパミンの規制をVTAに対して行います。
快楽の中枢でありながら、行過ぎないように自ら働きかけている神経核と言うことになります。

痛みのあるときは痛みがドーパミン作動性神経の機能抑制を行い、ドーパミンによる多幸感が感じづらくなっているので、依存症が起きにくいようになっています。
ですから専門医が適切に使う必要な鎮痛剤は、少なくともモルヒネを使わざるを得ない状況では拒否する必要は無いと考えるべきでしょう。

ですが痛みの無いとき、アヘンやモルヒネなどを使うとこのGABAを抑制し、これによって規制されているVTAのドーパミン放出が脱抑制を起こし、結果側坐核のドーパミン遊離も促進され多幸感が演出されます。
これが繰り返されると精神依存(これが無いと気持ちが高揚しない=脳の代謝を上げられない)を引き起こします。
またこれによる脳内ネットワークの活性化により、痛み処理系も高揚し、結果的に鎮痛が起きると考えられています。

同時に疼痛下行抑制系にも直接働きかけ、脊髄以下のレベルで起きる疼痛抑制処理を増強します。

さて痛みに対してこんなにも便利な物質がアヘン、モルヒネ、ヘロインなのですが、その効き目故にやっかいな状態を引き起こすので法律によって強力な規制がかけられています。
そしてその(場合によっては)数倍の効き目を持つオピオイド類は当然依存症を引き起こす物質であるわけです。

通常βエンドルフィンなどの物質は体の痛みや不快感がピークに達すると放出されると考えられていますが、個人差がありはっきりとはわかっていないそうです。
ですが、スポーツなどである一定の負荷あるいは時間が過ぎると急に楽になり、ずっとそのまま運動を続けていたいと思えるようになるそうです(私も昔そんな経験があったような気がします)。
これを一般的には「ランナーズハイ」などと呼び、オピオイド類が引き起こすある種の陶酔状態であり、体調がどうあれ走らないときが済まない人を増加させている主要因だと言われています。

実はこれも立派な依存症で、こういった状態にある人がその依存行為(走るなど)を欠かすと、とたんに不安や嫌悪感に襲われるようになります。
本来は身体的な依存(走ることで代謝が上がり爽快感を得られる)であるはずなのですが、行過ぎるとアヘンなどを使用した状態と同じようになる危険性をはらんでいます。

事実筋力の的確な増強なしでランニングを続けてゆくと、ある時期を境にに不可逆的な問題(いわゆる深刻な病理変性)を引き起こしやすくなると言われ、痛みを感じずに済むためにかけ続けた過剰な負荷が浮き彫りになってきます。
こうなる前に前兆はあるはずなのですが、どうも(もちろん私を含めた)人間というのは本能よりも快楽に弱いらしく、ついつい気づかずに無茶を重ねてしまう動物のようです。

こういった鎮痛、快楽のコントロールを含めた、脳内物質の分泌/抑制の最適ポイントというのがどこにあるのか。
きわめて興味深い課題として私には感じられます。

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