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迷走神経刺激

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迷走神経刺激について

FBでフォローしている神戸東洋医学研究所さんがポストされていた記事を読んでみました。
https://www.psypost.org/stimulating-the-vagus-nerve-reduces-susceptibility-to-body-illusions-study-finds/?fbclid=IwY2xjawMKgz9leHRuA2FlbQIxMQABHrnFQVyGYT7hhugpYaKQ3XMil_XwFYbpYC3vUpWbisnJ96fLD-4vvBLfUaqg_aem_xiKZCi74APcncAnhR5N-sA
耳介そのものは発生学的に複数の胚によって作られていて、迷走神経による支配領域を持つこと、そしてここへの刺激は多くの臓器への影響をもたらしうることは知識としては知っていましたが、この耳介迷走神経刺激療法については全く知りませんでした。
この記事をうけFB上で書いてあることの中で大変興味深かったのは、ラバーハンドイリュージョンの影響を受けづらくなる=内受容感覚を始めとした自身への注意が高まるという下りです。

ここで迷走神経自体のおさらいを。
迷走神経は第10脳神経であり、主に内臓器に対する影響が強い、副交感神経線維で出来た長い神経です。
「迷走」とつくだけあってその走行経路は複雑を極めています。
通常交感神経系と対をなし、主にエネルギー回収を行うシステムを担っています。
これが強く働くと鼓動は遅くなり、血圧は下がり、逆に消化管はほぼ全域で活動を高めエネルギー吸収を促します。
午後午前ともだいたい4時くらいに交感神経とスイッチします。
また内臓からの活動レポートを受け取り視床経由で島皮質に送信し情動(感情の元になる身体的な変動)を生成する役割も担っています。
またその背側核は内臓平滑筋の動きを監視し、そのフィードバックは延髄弧束核から大脳辺縁系に入力され内受容感覚および危険に対する評価の一端を生成しています。

最新の神経科学は迷走神経を単なる送電線とは考えず、私たちの複雑な心証形成=身体現象にかなり強い影響を持っていることを示し始めました。
今更ですが呼吸がゆったりしていて心拍数が早まらないとき、私たちは落ち着いてものを考えたり感じたりすることが出来ます。
当然体内の感覚にも目を向けやすいということになります。
ラバーハンドイリュージョンはゴムで作った「偽手」をまるで自分の手のように錯覚してしまう現象で、数多くの様々な研究結果が報告されています。
迷走神経を適切に刺激するとこの錯覚が起きづらくなる。
私たちの脳は結構騙されやすいけれど、無意識下で行われている監視は意外と怠ってはいないということでしょうか。

迷走神経の反射ポイントの1つが「足三里」という有名な経穴です。
これを鍼灸で刺激することによって様々な不具合、薬物中毒などを含む、を緩和しうることはよく知られています。
どうやら私たちという"システム"は交感神経系が先走るような状況下では色々不利に傾きやすいようです。

もう一つ
神戸東洋医学研究所さんは次のようにも書いています。
「これまでの研究では、内受容感覚、つまり心拍などの体内の信号を感知する能力が、身体所有感に役割を果たしていることが示唆されています。taVNSは内受容感覚の認識を高めることが示されているため、身体所有感にも影響を与える可能性があるかどうかを探りたいと考えました。」

統合失調症の一部のケースでは「させられ感」が強く出る場合があります。
自分で動かしているのに何かに動かされているような感覚のことを指します。
自由エネルギー原理はこれを次のように説明しています。
通常私たちが自分で運動を起こす場合、運動したときどのような感覚(運動器内部からのフィードバック)が生じるかを予測し運動野が脊髄α運動ニューロンに刺激を送ることで実際の運動が開始されます。
この時頭頂葉にコピー信号が同時発射されます。
これが実際の運動器からのフィードバックと比較され、十分に高精度=予測とフィードバックの差が小さいとき、予測誤差修正のためのアクションを起こす必要性が減じる。
例えば予測とピタリと重なる、つまり誤差が全くないとしましょう。
この時送られてくる信号全体(今自分の運動器が何をしているのか)を知ることは、リソース節約という脳の原則から逸脱します。
それ以前にそもそも私たちの脳はトップダウンの予測(世界観)との差違だけを拾い上げるようになっています。
差が無いことをいちいち感じるようにはなっていないのです。
これが「感覚減衰」と呼ばれる現象で、自分で自分をくすぐってもくすぐったくない理由とされています。
統合失調症では感覚抑制機能低下或いはコピー信号(随伴発射と言います)が乱れやすい状況にあることが多いため、脊髄へ送る信号と随伴発射がズレやすいためフィードバックとの誤差が大きくなりやすいと考えられています。
この時生じる求心的な信号は本来ならば生じ得ない「別の力が働いたような感覚」を脳内にもたらします。
すなわち自発的な運動がもたらすフィードバック信号が健常よりも大きな差違を伝えがちなため、自分以外の何かがそれを行っていると解釈されるようになります。
これが繰り返されることによって身体の自己所有感の低下が本人の中では事実化していきます。

これは迷走神経の機能制限とは一見関係なさそうですが、内受容感覚に対して鋭敏になる方向への誘導は、脳内がドーパミン過剰状態によって興奮混乱することで起きると考えられている統合失調症の(一時的かもしれないけれど)緩和に役立つ可能性は否定できません。

また結論として
「これは、迷走神経刺激が外部感覚入力と内部身体信号のバランスを変化させ、人々が外部からの手がかりよりも実際の身体に頼るようになることを示している。この発見は、離人症、特定の不安障害(anxiety disorder)、さらには慢性疼痛(chronic pain)など、身体知覚が障害される疾患の理解に重要な影響を与える可能性がある」
とも書いています。
外受容感覚は所謂五感覚と呼ばれるもので、第一脳神経(嗅神経)を除き視床経由でそれぞれの処理エリアに投射しています。
これによって今自分がおかれている環境を知り危険回避の指針を立てます。
内受容感覚の他に自己受容感覚というものもありますが、これは内臓以外の内部感覚(筋肉や関節のセンサーから送られてくる情報で生成される身体感覚)がそれに当たります。
これらは状況や環境によって一時的に強調される、或いは鋭敏になることはあっても本来ならば適当な割合でセンサリングが行われる必要があります。
事前に立てた予測とちがう状況。
私たちはそれを危機的状況=ストレス環境と感じます。
軽重はあるにせよこの状況下では交感神経が主役となってくるかもしれない戦いに備えます。
この時どうしても外部への注意が優先され、内部状況の監視は後回しになります。
このバランスを取り戻す。
迷走神経刺激にはそのような効果があると考えられます。

実際の治良においては特に迷走神経を刺激するようなことは(あまり)しませんが、基本的には緊張が解けるような方へ誘導するので結果として迷走神経優位になることが圧倒的に多いようです。
眠る、お腹が鳴る、手足が温かくなるなど緊張緩和時特有の反応が高い割合で見られるので間違いはないでしょう。
私にとっては大変興味深い内容でした。

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