蝶形骨
蝶形骨
さて、問題の蝶形骨です。
この骨は非常に扱いがやっかいです、いろいろな意味で。
まずその構造が特殊です。
いわゆるこめかみの部分を大翼といい、顔面を正面から切り落とした状態でみると、蝶が翼を拡げているように見えます。
大翼があるなら当然小翼もあります。
これは上あごの奥、喉の手前あたりに延びてきているパーツで、小さな羽のように見えなくもありません。
そしてその接続がまたやっかいです。
上方で頭頂骨、後方で蝶形後頭底結合を介して後頭骨、側頭骨の隣にして前頭骨ともがっちりかみ合っています。
鋤骨を介して上顎骨、小翼を介して口蓋骨。
さらに頬骨とまで接合しているのでほとんどすべての頭蓋構成骨と関連しています。
この骨は頭蓋の他の例に漏れず、軽量化のためか含気状態ですかすかです。
と同時に内部を横断している大きな骨なので、頭蓋全体の応力分散機構の要とも言える骨です。
その中央部近くにある脳下垂体を収容するかのようなくぼみ部分は、膜組織によって海綿静脈洞という構造を形作っています。
他の部分と違い、複雑な形状の流路で、周辺組織への冷却効率に問題があるようにわたしには見えます。
治良を進めていくとあちこちが順序よく、時にはいきなり一斉に緩み可動性を回復してゆきます。
おおくのケースで一番最後に緩むのが蝶形骨で、わたしにはこれが「最後までがんばってカラダの問題を監視している」ように思えるのです。
逆に言うと蝶形骨が制限から解放されたとき、(現時点で)それ以上を望まなくても大丈夫、ということになります。
こめかみに手を当てて、この大きな骨がどのように動こうとしているのかを感じてみてください。
この骨の左右への膨張、収縮は他と比べるとかなり小さいものとなっていることがわかるでしょう。
その分前後へのロール、あるいはピッチングのような動きが顕著であることに気がつきます。
そしてこの頭蓋を横断する“要石”のような骨が静かにしかし休み無く「呼吸」をしていることに気がつくはずです。
それはまるで骨自身が体液を吸い込んでは排出するような行為をしているかのように感じるかも知れません。
ここはそう簡単に緊張を解いてはくれませんが、根気よく観察を続けているとそのうち制限によって得られていた(レベルの低い)安定を手放してくれるかも知れません。
そのとき頭蓋は言うに及ばず、遠く離れた部分の緊張も解除されていることにあなたは驚くかも知れません。
どの骨とも連動しているようで、しかしどの骨よりも孤高である。
矛盾しているようですが、わたしの蝶形骨を触るたびに抱く感想です。