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奇妙な痛み

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奇妙な痛み

以前「四肢の痛みが年々ひどくなり、薬も抗うつ剤も鎮痛療法も効かない」という方が来院されました。
整形外科的な筋力検査では周辺筋肉にやや筋力低下がみられるものの、動かすたびに激痛というわけでもなさそうでした。

単純に考えるなら「これは当該筋肉の炎症などでは無い」という答えが出てきます。
ではどこから痛みが来ているのでしょうか。

痛みについていくつか私がわかっていることを書いたことがあります。
中には線維筋痛症などと言ったきわめて重大な、しかも治癒が難しい問題もありました。
しかし今回の問題はどうもそれとも違うような気がしました。

検査結果は以下の通り。

・右後頭骨および蝶形後頭底結合に可動制限あり
・四肢に皮膚温低下がみられ、動かすたびにオーバーシュートがみられる。
・左眼瞼の痙攣
痛みのための継ぎ足歩行テストは実施不可でした。

四肢そのものへのアプローチは功を奏さず、かつ運動制御に関するエラーが散見されることから、中枢性の問題があると考えました。
ただし単純な中枢過敏では無く、運動コントロールに関する問題とみるのが妥当のようにも思えました。

以前読んだ本の中で「痛みは位置覚の差から生じている可能性がある」とする説がありました。
その説自体は仮説の仮説レベルらしいのですが、臨床的にみるならば十分納得できる説明があり、なかなか興味深いものでした。

筋の張力は脊髄反射レベルで、またそれを反応させるセンサーおよび統合的な筋感覚は脳幹より上の制御が関わっています。
一方、深部知覚と呼ばれる無意識レベルで処理される感覚は、関節や靱帯などに埋め込まれたセンサーの情報が小脳から平衡感覚などとともに大脳へ送られ、演算され、視覚などと照らし合わされ体が安定しているかどうかをチェックするためにも使われます。
当たり前に考えるならば上記の筋の伸張状態やその使用状態、深部感覚や平衡感覚といった無意識レベルで処理されることが多い感覚とその反射によって、私たちの体は痛みや違和感を感じること無く運営されているとみることができます。

このケースにおいては四肢運動時のオーバーシュート、左眼瞼の痙攣は大脳基底核の問題と、この制御に関わる小脳機能の問題がある可能性を示しています。
また痛みの直接的な背景として小脳機能低下による深部感覚捕捉不全による位置覚のセンシングミスがあるものと考えました。

後頭骨可動制限を解除>右小脳天幕に牽引されていた左小脳天幕側頭付着部の可動範囲を拡げる ことにより経過観察。

2回目の治良時すでに眼瞼痙攣は収束。
四肢皮膚温もばらつきはあるものの概ね改善するが、動きのオーバーシュートは半分以上残存。
痛みは歩行状態からみて改善方向にはあるようでしたが、本人の自覚的な感触は変化なしとのことでした。

眼瞼のコントロールは基本的には顔面神経のみです。
ただし眼球の保護という性質上様々な経路、システムが副次的に関与しているのは言うまでもありません。

一方四肢の運動/知覚は膨大な筋をはじめとした運動知覚器の総合的な制御が必要で、小脳制御ループにおける演算量も(おそらくは)桁違いなものになると推測されます。
いきおい深部知覚の捕捉エラー修正にも時間がかかることは容易に予想されます。

おそらくこれが症状改善の時間差となって現れているのだろうと私は考え、基本的な治良方針を変えずすすめました。

結果的には3回の治良で(本人の申告では)すべての痛みと不調感は消失。
四肢もその運動が適切に制御されているように見えました。

制御系の問題そのものは以前からよく見ることがありましたが、それらはある種知覚障害/異常や疼痛減衰メカニズム不全のようなものが大半でした。

しかし最近は運動制御問題から生じる痛みが目につくようになってきています。
私の基準のほうが変わったのがその理由かもしれませんが、運動系とその制御系の治良で痛みが緩和されることが多くなってきたのも事実です。

かなり前にNHKで「腰痛の8割は腰以外の問題」という主旨の番組を放送していたことがありました。
事の真偽はさておき、臨床にいる人間からみると「あーそうかもな」と思わせる内容だったのを覚えています。

もちろん痛みのある部位や解剖学的生理学的に関連のある部位の問題、つまり従来言われてきた問題もあり、かつ外科的なアプローチやリハビリテーションを必要とする問題があることはわかります。
ただ同時に「意外と運動系制御系問題というのは痛みを感じさせる背景になっているんだな」とも感じました。

大脳基底核の基本的な仕事は広範なインパルス群を一つのオペレーションとして運動補足野に集中させる”漏斗効果”でした。
また同時に主に学習済みの動きをスムーズに行なえるよう、運動の初動と終結の力加減を精密にコントロールするのもこの系の重要な仕事です。
逆にこの系のどこかにエラーを抱えると、随意運動が“ちょうど良い塩梅”にならず、動き出しが鈍くなったり、一度始めた運動をなめらかに終えることが難しくなります。
また運動補足野にインパルスを送る視床に対しブレーキ役となっている淡蒼球、さらに淡蒼球を絞っている新線条体が各々機能を落とすとき、視床は適切なブレーキを失ったエンジンのように常時不要で小刻みな刺激を皮質に送り続けることになります。
結果、振るえや痙攣と言った意図しない動きに悩まされることになります。

このことを踏まえて考えるとき、そして小脳からの視床入力先が淡蒼球と同じであることを考えあわせると、小脳に入力された各組織の深部感覚と前庭神経からの頭部加速度/傾斜情報は、運動制御反応に深く関与していることになります。

これはもう一歩進めて考察してみるに、次のような説明に高い蓋然性を与えることになります。

大脳基底核の関わる運動(いわゆる錐体外路系)における基本的な制御ロジックは、各組織や器官がレポートする精度の高い情報があってこそ成立する。
・筋肉のオンデマンドかつスムーズな動きは、特に大脳基底核経由の場合は主に予測によって成り立っている。そして予測と違う負荷がかかると、筋は十全に力を発揮できず、本体を含め付着部や靱帯にまで微少断裂を含めむ損傷が及ぶ可能性が高い。
・通常であればそれらは軽微な問題のため、即座に修復メカニズムによって復元されうるが、レポートとその結果生じる制御にミスアライメントを生じさせるものが含まれ続ける限り、損傷は繰り返される。
・結果当該部位のケアだけではいかんともしがたい問題が継続されうる背景となる。

もし私の仮説がある程度の蓋然性を持つとすれば、スポーツ損傷を含め、(特に体幹や四肢の)多くの痛みはその原因を神経系のトーンエラーに求めることができるのかも知れませんが、現状ではどの程度のケースが該当するのかはっきりしていません。
研究を続けてみたいと思います。

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