効率とは何か
効率とは何か
治良とは?という質問に対して「目的の一つは効率を上げること」と答えることがあります。
ではさてこの「人体における効率」とはどんなものを指すのか。
少し詳しく考えてみましょう。
分かりやすいので「脳」を例に挙げて考えてみます。
f-MRI(機能的磁気共鳴画像診断機)を使って脳の稼働状況を見てみると、よく働いているところは周囲よりも赤く写って見えます。
これはその場所がより沢山の酸素を使っている、イコールエネルギーを消費していることを示しています。
単に内外の刺激に対して処理を行っているようなときもそうなりますが、これが顕著になるのは「色々考えているとき」であるドクターは話しています。
考えるとは?
では「考える」ってどういうことなのでしょうか。
人はある行動をとる、或いはとろうとするとき、どうやったら最も自分が得をするかに重点を置いて答えを求めようとします。
これは生き物の原理原則であり、揺るがしようのない「真理」でもあります。
一方で私たちはどんなにデータをとってそれをベースに最適解を出そうとしても「100%自分が得する答え」には原理的にたどり着けません。
しかし決断を迫られる時、まず脳≒自分を納得させる必要が出てきます。
こちらを選んだ自分は正しかった、と言うように。
そしてこの「考えた末に出た答え」は「現状に対して自分の知っているイメージ(情報)をつなぎ合わせて自分の中では整合性のある物語を見つけること」でもあります。
これを別名「自分に対する言い訳=ナラティブ」と言います。
そしてこれは生存確率の向上のためのものより時として優先する反応でもあります。
以前にも少し書いたのですが、私たちの脳は「予測と言い訳」を常に行っています。
世界(自分の置かれた状況)ってこんなもののはずで、自分がそれに対して行った行動はこれこれこういった理由がある(と思いたい)。
こうした客観性のない整合性は実は脳にとって最も大切な反応で、 これを求めて脳は身体を含めてリアクションを起こすようになっています。
それは「自由エネルギー原理」で示されているように、できるだけ新規のエネルギー消費は避けたい、つまり自分の前提に沿った以外の現実は拒否したいあるいは脳内世界にそった行動をしたいという脳の基本的な性向によるものです。
考えるというのは私たちの言い訳を作るために起きている脳内反応である、ということになります。
さてでは「考える」ということがスムーズに行われているときってどういったときでしょうか。
これは「自分の予測と違わない現実があり、それを利用する際にイメージの変更や連結を行わなくてもすむ状況」におかれている時だと言えます。
見慣れた机の上に、いつもと同じように置かれているマウスやキーボードを操作するとき、大抵の人はいちいち位置を確かめたり動作をチェックしたりはしないはずです。
昨日も今日も明日も正常に作動するという事前予測(思いこみ)に基づき、最小限のエネルギー消費ですむように操作を始める。
この時f-MRIでみてみると、おそらく赤く見える部分はほとんどなく、脳のリアクションは最小限にとどまっていると考えられます。
そしてそれらは一処理が0.5秒未満、つまり意識に上らないまま処理を終えているはずです。
少し説明が長くなりましたが、このように最小限のエネルギー消費で目的を達成できる、或いは自身の機能を維持できている状態を私は「効率が良い」と表現します。
処理過程に余分なエネルギーが発生しないということは目的達成に対して余計な反応がない或いは最小限であると言うこと。
先のマウスの話に重ねるといちいち場所や形状を確認しなくても自然に手がいって即操作を始められ、操作時のミスもない。
この反対、つまりいちいち日常のあれこれを確認しなければならないとしたらどれだけ疲労するかは想像に難くありません。
脳だけではなくどの組織器官もそれは避けたい事態であるはずです。
そして不調感を抱えていたり身体のどこかに異常を持っているとき、スムーズな内部処理から離れていく結果になりがちです。
風邪をひいただけでも様々なスムーズさがだだ下がりになります。
これを別の角度からみてみると物理的生化学的な反応の結果生じた応力をうまく分散吸収処理できているならば基本的には健康と言える。
構造的機能的なつながり、連携が上手にとれているならば私たちは不健康に向かうリスクを下げることが出来る、ということになります。
生まれたての健康な赤ちゃんが他の条件同一の大人よりも怪我や病気を起こしづらい理由にもなります(赤ちゃんって色々"柔らかい"ですよね)。
更に換言してみると機能的構造的に連携度の低い個体は「色々硬い」と言えます。
だから私たち手技療法家はその硬さを解消するためにあれこれする、ということになります。
理由があって硬かった身体を柔らかくすると機能や構造がよりスムーズに、つまり効率よく働くようになる。
連携伝達ロスを減らすべく色々調節し、結果である緊張を解除するつまり効率を回復させることで原因の解決、或いはそのきっかけを作ることができる。
治良の目的=効率を上げることと表現するのはそんな理由があります。