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オキシトシン

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オキシトシン

昨今話題になっているオキシトシンについて質問を受けました。
30年前、私たちが習ったのは「下垂体後葉から分泌されるホルモンであり、催離乳ホルモン、あるいは子宮収縮ホルモンであり・・・・・」という記述のみでした(記憶違いがなければですが)。
これは今でも間違っていないようですが、末端臓器、組織に対する影響だけを書いているモノです。
所謂「ホルモン」という、標的臓器に対するコントロールを行うためのペプチドという側面だけが記述してあったわけです。

しかし、近年神経伝達物質としての機能がクローズアップされるようになり、その効能から一部では「幸せホルモン(正確には幸せ伝達物質といったところでしょうか)」などと呼ばれたりしているようです。

いつものように自分の不勉強さを補うために調べてみました。

下垂体は発生学的に異なる二つの(正確には三つ)の器官が合体しています。
オキシトシンとバソプレッシン(抗利尿ホルモン)を分泌する後葉は、脳の一部(外胚葉由来)であり、それ故に神経性下垂体とも呼ばれています。
下垂体の上には視床下部がありますが、この中に室傍核と視索上核という神経核があります。
ここで産生された二つのホルモン(構造がとてもよく似ています)は下垂体後葉に運ばれた後、内部にある門脈から血管→標的臓器へと流れてゆきます。
オキシトシンは末端臓器においては強い子宮収縮作用、乳腺における乳汁分泌作用などがあり、その受容体はそれ以外の臓器にも存在していますが、どのような働きかけをするのかまでは調べてみましたがはっきりわかりません。

一方脳内においては報酬系の一部である側坐核や情動に強い影響を与える辺縁系などに投射し、個あるいは集団内における親和性、寛容性、育児に対する積極性などに関与していると考えられています。
また相手に対するソフトなタッチ(ただし不用意に行うと相手を怒らせる可能性もありますのでご注意を)によりその分泌が増す傾向にあり、痛みをはじめとした様々な不快感、あるいは不安感を減衰させる効能もあると期待されています。
また体温上昇に関する支援反応にも関わっているとみられています。

面白いのはオキシトシンを必須とする反応は乳汁分泌のみで、子宮収縮あるいは分娩そのものは「なくてもなんとかなる」という点です。
つまり何らかの近縁物質(バソプレッシンなど)によって代替が可能で、私たちの体が「結構いい加減」なつくりであるなと再確認できました。

脳内における神経核への投射についてですが、リラクゼーションあるいは攻撃性(これは言い換えると行過ぎた個体維持反応)の低下といった、自分とそれ以外の区別を曖昧にする効果があるように思えます。
かといって免疫システムの低下があるという記事は見つからないので、あくまで脳内における個体の認識があやふやになるよう仕向けられるようです。

これは想像でしかないのですが、そうすることによって集団内での出産、育児のサポートが期待できるようになるため、そのような「リラックスした状態」が誘導されるのかなと、現時点では考えます。

徒手矯正を生業としている身として、もうひとつ興味深いのが「ソフトタッチやハグによって生じる分泌量の増加」という点です。
医療の原点の一つは「手当」だと言われています。
「痛いのイタいの飛んでいけー!」などがあるように、優しいタッチによる鎮痛は意外なほど効果がありますが、この鎮痛の主役がどうやらオキシトシンの(主に)側坐核への投射にあると言われているようなのです。

扁桃体の稿でも少し書きましたが、側坐核は中脳腹側被蓋野から投射を受け興奮しますが、内部では抑制性の反応も起き、報酬系の暴走にブレーキをかける役割も果たしています。
ここが興奮を起すと内部や周囲への感受性が(鎮静性に付随する形で)強まり、一方でそれに対する生理の閾値は上がります(心拍数が容易に上がったりしないなど)。
物事がよく見えつつも落ち着いて観察していられる状態が作られるようになり、結果的に自分や周囲へのストレスは低下してゆきます。
これらは扁桃体などの興奮によって誘導される不安や発痛に対してカウンター的つまりそれらを押さえ込むように働くため、扁桃体などの興奮が維持される状況が必要十分なレベルで解除されなければ、オキシトシン分泌量低下後再び痛みを感じることになると予想されます。

もちろん中枢性の鎮痛作用を持つのはオキシトシンだけではなく、セロトニンやドーパミンにもその働きがあると言われています。
おそらくは同じあるいは並行したシステムに重複/協調する形で投射が行われ、その作用が発現しているのだろうと推測します。

概してその作用は鎮静、緩和方向に向くようで、受容体が正常ならば攻撃性低下、寛容性向上と言った形であらわれ、血管拡張作用もあり、心理的には落ち着いた状態が見られるようになります。
脳内では不安が抑えられ、身体全般で血管拡張をはじめとしたリラックス効果が得られる。
逆に抗不安作用を持つアプローチや、適度な温熱/保温を施すことによって、ポジティヴフィードバックによる制御を受けるオキシトシンの分泌量増加をある程度期待できると考えられます。

大切な人に対するボディタッチやコミュニケーション。
是非試してみて下さい。

'6月3日追記'

オキシトシンがとても好ましい効果をあげうることは今回の勉強でわかりました。
ただし、この手のホルモンあるいは伝達物質の摂取について回る「過剰症あるいは副作用」についての研究はまだ十分とは言えないようです。
本来、こういったペプチドが粘膜や消化管から、脳血液関門を超えて直接中枢神経系へと届くことはありません。
オキシトシンの場合、鼻粘膜への投与である程度の効果が得られるようですが、”効く”と言うことはオーバードースあるいはオーバーシュート、そしてその影響による標的組織の可塑性(組織変性)に関する可能性までも視野に入れる必要があります。
ホルモンあるいは伝達物質と呼ばれる分子は、強い影響力を持って標的臓器、組織を突き動かします。
本文中にもあるように、少し出ると周囲を刺激してどんどん出てくるようになる(ポジティヴフィードバック)のがオキシトシンを分泌する細胞(室傍核や視索上核)の特徴のようですが、これらが出過ぎて起きる状態、つまり過剰なほどの寛容性や許容性が必ずしも好ましいばかりとは言えないはずで、あるシチュエーションにおいては個体維持あるいは育児に不利な状況を招かないとは言い切れません。
また、伝達物質としてのペプチドが神経核を頻繁に刺激するとき、神経細胞の耐久性の問題から、受容体の数が減じたり、感度の低下が起きることは生理的にあり得ることです。
依存症とまでは行かなくても、使いすぎて大事なときに効きづらいなんてコトは十分あり得る話でしょう。

オキシトシンの効果をうたうサプリメントやそのたぐいの点鼻リキッドは普通に市販されていますが、ビタミン剤ほど安易に飲んでよいモノではないと言うことを頭の隅に入れておく必要はあるようです。

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